キリマンジャロ登山でいちばん心配なことといえば、何と言っても高山病。
キリマンジャロ登山では1日約1,000mも標高が上がるので、残念ながら完全に防ぐのはほぼ不可能です。
でも、なかなか行けない、一生に一度かもしれないキリマンジャロ登山。何としてでも登頂を成功させたいところです。
そこで、個人差はありますが、高山病予防薬を飲むことによってある程度高山病を予防し、登頂成功の可能性を上げることができます。
今回は、キリマンジャロ登山の高山病対策に持っていく予防薬を紹介します。
そもそもキリマンジャロ登山で高山病予防薬って必要?
高山病を予防するには、1. 十分な水分補給、2. エネルギー補給、3. ゆっくりとした歩行、4. 意識呼吸などが重要です。
これらを意識してゆっくり順応していけば、基本的には薬を用いる必要はないものとされていますが、キリマンジャロ登山の場合、薬を飲んで登山したほうがよいと考えられます。
その理由を下記に挙げてみます。
1. キリマンジャロ登山では高度順応が難しい
一般的に高度が高く、上昇速度が速いほど高山病を発症しやすく、重症化するため、
高山病を予防するには、ゆっくり標高を上げ、高度順応していくことが必要です。
UIAA(国際山岳連合)の公認基準では、
「2500~3000mを超えたら、次の夜は前日よりも300~500m以上標高を上げて滞在しない」
ことが推奨されています。
しかし、キリマンジャロ登山の場合、宿泊指定地が標高約1,000mごとにしかないため、
この基準にのっとって登山をすることができません。
したがって、高山病予防薬が助けになると考えられます。
2. 個人的にも薬を飲んだときのほうが調子がよかった
体質や基礎体力によって、薬を飲まなくても登れる人は多くいるかもしれません。
僕の場合は、初めてのキリマンジャロ登山(マチャメルート)では高山病予防薬を持たずに登ってひどい高山病に苦しみ、途中までしか登れませんでした。
2回目のキリマンジャロ登山(マラングルート)では、飛行機内の乾燥で事前に喉がやられていたりもしましたが、高山病予防薬を飲み、初めてのときより高山病の症状も比較的軽くなり、登頂もできました。
マチャメルート頂上アタック日の模様はこちら↓
マチャメルートよりマラングルートのほうが傾斜もゆるく、楽ではあるので、
実際にどの程度薬が効いていたかは不明ですが、やむを得ず標高を急激に上げるときに高山病予防薬を飲むことがマイナスにはならないだろうと言えそうです。
3. 睡眠中は呼吸の制御ができない
高山病予防には意識呼吸(腹式呼吸・口すぼめ呼吸)をして、体内の酸素量を補ってやるのが効果的と言われます。
これをうまく行えば、4000〜5000m台の高度であれば、酸素吸入に匹敵する効果があるとも言われます。
しかし、睡眠中だけは意識的な呼吸の制御がどうしてもできません。その結果、酸素量が低下して体調を崩しやすくなります。
したがって、呼吸数を増やすダイアモックスなどの高山病予防薬が助けになると考えられます。
4. 千駄ヶ谷インターナショナルクリニックのお墨付き(笑)
一般内科診療のほかに旅行外来も行っている千駄ヶ谷インターナショナルクリニック(東京都渋谷区)では高山病予防薬の処方も行っています。
ホームページにはこう書かれています。
”当院の開院以来、当院で上記の予防薬の処方を受けて臨まれた方は、全員キリマンジャロの登頂に成功しています。”
随分と自信のある書き方ですね(笑)
僕も実際ここで高山病予防薬を処方してもらいましたが、そのときもお医者さんに同じことを言われました。
処方してもらって登った人皆が皆、報告しているわけではないでしょうし、あくまで報告例のある中での話だとは思いますが、
薬を処方してもらうことにより少し安心感が出るのは間違いないでしょう。
5. 万全の対策をしておいたほうが後から納得もいきやすい
ほとんどの人にとって、キリマンジャロ登山はなかなか行くタイミングのないもので、一生に一度かもしれないものだと思います。
そんな中では、多少無理をしてでも、何とか登頂を成功させたいものです。
たとえ、万が一登頂できなくても、「あのとき薬を準備していれば…」という気持ちにならず、
万全の準備をして臨んだのだから仕方がない、と自分自身を納得させられる可能性も高くなるでしょう。
高山病の薬ってどんなものがあるの?
ここでは、実際に処方してもらった高山病予防薬3種を紹介します。
これらの薬は、CDC※(米国疾病予防管理センター)のガイドラインで紹介されています。
※CDC: 本センターより勧告される文書は、非常に多くの文献やデータの収集結果を元に作成・発表されるため、世界共通ルールとみなされるほどの影響力を持ち、実際に日本やイギリス等でも参照・活用されている。
ダイアモックス(アセタゾラミド, Acetazolamide)
高山病予防薬といえば、これがいちばん有名でしょう。
急性高山病・高所脳浮腫の予防として用いられます。
呼吸中枢を刺激し、呼吸数を増やしたり、脳血管を拡張したりする作用があります。
一方、副作用として、体力低下(約28%)、利尿作用による脱水症状、血圧低下、指のしびれ感などに要注意です。
レナデックス (デキサメタゾン、Dexamethazone)
急性高山病・高所脳浮腫の予防として用いられます。
急激な高山病を防ぐために、キリマンジャロやアコンカグアなどの高峰では「登頂日」にデキサメタゾンを使用する傾向が強まっています。
シアリス(タダラフィル、Tadalafil)
高所肺水腫の予防として用いられます。
(他にも、高所肺水腫の予防としてはアダラート(ニフェジピン、Nifedipine)があります)
どのタイミングで飲めばいいの?
ダイアモックスは山に登る前から、他の薬は登山の途中から飲みはじめます。
ダイアモックスの高山病対策での飲み方の標準
ダイアモックスの飲み方の基本指針は以下のとおりです。
山に登る前日 1日2回 朝・夕 各1/2錠※(=125mg)
山にいる期間中 1日2回 朝・夕 各1/2錠※
(ただし3日間まで、それ以降は予防薬としての服用は不要)
頭痛・吐き気等の症状が出たとき 1日2回 朝・夕 各1錠
※錠剤に凹みが入っているので、手で割って半錠飲みます。
千駄ヶ谷インターナショナルクリニックでは、マラングルートについて、何日目に各薬を何錠服用するかを示した資料をくれました。
資料から服用量をまとめた表を下に載せます。
日程 | 宿泊地 | 服用量(錠) | |||
ダイアモックス | レナデックス | シアリス | |||
0日目 | 夜 | (街中) | 1/2 | ||
1日目 | 朝 | 1/2 | |||
夜 | マンダラ・ハット(2,700m) | 1/2 | |||
2日目 | 朝 | 1/2 | |||
夜 | ホロンボ・ハット(3,700m) | 1/2 | 1 | 1 | |
3日目 | 朝 | 1/2 | 1 | 1 | |
夜 | キボ・ハット(4,700m) | 1/2 | 1 | 1 | |
4日目 | 朝 | 1/2 | 1 | 1 | |
夜 | ホロンボ・ハット | ||||
5日目 | 朝 | (下山) |
今回処方してもらった場所と費用
処方してもらった病院
「高山病 薬 処方 〇〇」(〇〇は地名)などとブラウザで検索すると、ダイアモックスなど高山病予防薬を処方している病院が出てきます。
また、日本渡航医学会のトラベルクリニックリスト(http://jstah.umin.jp/02travelclinics/)や日本渡航医学会の認定医一覧(http://jstm.gr.jp/certifying_physician-cat/kanto/)に病院名とダイアモックス取り扱いの有無がリスト化されています。
今回は、「千駄ヶ谷インターナショナルクリニック」で高山病予防薬を処方してもらいました。
千駄ヶ谷インターナショナルクリニック
【ホームページ】 http://www.sendagaya-ic.com
【アクセス】JR千駄ヶ谷駅から徒歩3分
【住所】東京都渋谷区千駄ヶ谷1-20-3
【特徴】一般内科診療のほかに旅行外来(トラベルクリニック)を行っている。
インターナショナルクリニックと名乗っているだけあって、外国人が多い。
高山病に関する資料、現地での飲み方に関する具体的な資料も頂けて親切。
【診療時間】月〜金:10:00-13:00、15:00-18:00、土:9:00-14:00、日祝:休診
【受付時間】月〜金:10:00-17:30、土:9:00-13:30
かかった費用
高山病予防薬として薬の処方を受ける場合は、保険は適用されません。
例えば、ダイアモックスが保険適用されるのは、緑内障・てんかん・メニエール病・睡眠時無呼吸症候群などの治療薬として処方を受ける場合です。
千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの場合、ホームページによるとダイアモックスの処方は「10錠で5,140円(診察代込)」です。
今回、高山病予防薬3種類(ダイアモックス・レナデックス ・シアリス)とロキソニン(痛み止め)、ナウゼリン(吐き気止め)、パンラクミン錠(整腸薬)を処方してもらい、診察代込みで14,110円でした。
保険が効かないと薬って高い…。
他に持っていく薬は?
高山病予防薬のほかに持っていく薬の候補を挙げておきます。
頭痛を抑える薬
ロキソニン、バファリンなど
高山病の症状のひとつである頭痛対策で、症状が出たときに飲みます。
吐き気を抑える薬
ナウゼリンなど
高山病の症状のひとつである嘔吐・吐き気の対策で、症状が出たときに飲みます。
ちなみに、ガイドに吐き気を訴えるときに、適切な英語が出てこなくてよく困っていたのですが、
throw upが使えるようです。vomitも通じましたが、ガイドによりそうな気がします。
整腸薬
パンラクミン錠、ビオフェルミンなど
高所では消化機能が衰えやすく、食欲不振等になりやすいです。
万が一の風邪対策
葛根湯など
日本からキリマンジャロ空港までの長いフライト時間では、飛行機の乾燥による風邪などに要注意です。
特に安い飛行機の場合、乗り継ぎが多くなり、リスクがより増大すると考えられます。
マスクを持参するのもよいでしょう。
その他薬
その他、個人的に飲んでいる薬があれば持参します。
予防接種について(A型肝炎・黄熱病など)
特にワクチンの予防接種はしていきませんでした。
タンザニアは入国に際し予防接種が必須とはされていません。
また、キリマンジャロ空港に行く際に、ケニアのナイロビを経由し、入国して半日程度観光もしましたが、特に予防接種の証明書などは求められませんでした。
ただし、ケニアの場合、他国を経由する場合や出入国審査官の裁量でイエローカード(黄熱ワクチン接種証明書)が求められることもあるとのことです。
(参考:外務省 世界の医療事情 ケニア https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/africa/kenya.html)
また、推奨される予防接種もあるので、個人の裁量で接種するのもよいでしょう。
(参考:日本検疫衛生協会 旅行先別予防接種チャート https://www.kenekieisei.or.jp/chart/#yobou)
逆に飲んではいけない薬は?
睡眠薬は、呼吸の抑制効果により動脈血中の酸素が不足した状態になるため、高山病の影響で眠りが浅いからといって服用してはいけません。
また、薬ではないですが、お酒は利尿作用による脱水(血液の流動性低下による酸素供給能力の低下)、夜間の呼吸抑制につながるので、おすすめはできません。
お酒の楽しみは下山後に取っておくのが賢明と言えそうです。
まとめ
・キリマンジャロ登山では標高を急激に上げるため、高山病予防薬を飲むのが有効と言える
・高山病予防薬には、ダイアモックス、レナデックス 、シアリス、アダラートなどの薬があり、急性高山病・高所脳浮腫・高所肺水腫の予防として服用する
・ダイアモックスは山に登る前から、他の薬は登山の途中から飲みはじめる
・高山病予防薬は保険が適用されないため費用が高くつくが、なかなか行けないキリマンジャロ登山のために万全の対策をする意味では有効と言える
・その他必要に応じて頭痛薬、吐き気止め、整腸薬などを持参する
おもな参考文献など
記事を書くにあたって参考にした文献などを挙げておきます。
・登山の運動生理学とトレーニング学(山本正嘉著、東京新聞2016年発行)
海外での高所登山・トレッキングの章があります。
・CDC High-Altitude Travel
CDCの高地旅行の項目です。高山病予防・治療薬のことも書いてあります。
・千駄ヶ谷インターナショナルクリニックホームページ
高山病予防薬の処方を受けた病院。高山病に関する情報も載っています。
・ミウラドルフィンズ(東京都渋谷区代々木)のキリマンジャロセミナー(2017年11月7日)
国内外の高所登山・高所旅行をする人向けの低酸素トレーニングができるミウラドルフィンズで行っていたセミナーに参加し、キリマンジャロ登山の概要や高山病予防の話を聞いた当時のメモを参考にしました。